トイファクトリーが新事業部「TFME」を発足、その狙いとは?
キャンピングカー業界を牽引してきたトイファクトリーが、新たな挑戦に乗り出した。2025年6月、次の時代のモビリティとエネルギーのあり方を模索する新事業部門「TFME(ティーエフエムイー)」を発足。キャンピングカーづくりで培った技術を活かし、防災支援車やモバイル医療設備、地方の移動手段の再構築など、社会課題の解決に取り組む。
そもそもトイファクトリーとは?
岐阜県可児市を拠点とするトイファクトリーは、ハイエースをベースにしたキャンピングカー製造台数で国内トップを誇る老舗ブランド。車両の安全性を保ちながら架装を行い、断熱や電装といった快適性における技術開発にも定評がある。
2025年1月31日から開催された「ジャパンキャンピングカーショー」では、同社の創業30周年を記念した特別仕様のキャンピングカーが発表された。
「はじまりはいつもトイファクトリーから。」というキャッチフレーズの通り、寒暖差を抑える高断熱施工や、独自のエアロウィンドウ、高効率ソーラー発電システム、家庭用クーラーを組み込んだクールコンプシステムなど、ユーザー目線の装備をいち早く導入してきた。
また、輸入車や輸入パーツの正規インポーターとしての顔を持ち、フィアットデュカトを用いたキャンピングカーの開発にも取り組んでおり、海外技術との融合にも積極的だ。さらに、特殊車両や医療用車両、ペット仕様モデルの製作実績も豊富で、2021年には『情熱大陸』でそのものづくりの姿勢が特集され、大きな反響を呼んだ。
地元・可児市との連携も深く、公園のネーミングライツ取得や、キャンピングカーオーナー向けの大規模ファンイベント開催など、地域活性化にも力を入れている。
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TFMEとは? モビリティとエネルギーの未来を見据えた新事業
TFMEは「TOY FACTORY MOBILITY & ENERGY」の略称。トイファクトリーが長年培ってきた設計力・技術力を、社会のインフラや課題解決に活かすために立ち上げられた新たな事業部門だ。
特に注目すべきは、企業(Business)向けのBtoBに加えて、官公庁や自治体(Government)に向けたBtoG(ビートゥージー)領域に力を入れている点。
※BtoGとは、企業が行政機関に製品やサービスを提供するビジネス形態を指す。災害支援車や移動診療車など、地域社会を支える公共サービスにおいて重要な役割を担う。
TFMEでは、以下の5つのテーマに挑んでいる。
・医療・福祉・防災・過疎など社会課題の解決
・エネルギー管理や監視システムの効率化
・次世代EVに対応した技術開発
・モビリティ開発によるグローバル市場への展開
・VTOL(空陸ハイブリッドモビリティ)など新領域の創出
すでに始動しているプロジェクト実績
TFMEはすでに複数のプロジェクトを動かしている。
たとえば、防災インフラ支援では、断水時にも使用できる可搬型ウォーターレストイレ「clesana(クレサナ)」の普及に注力。 「もしものときにも業務や暮らしを止めない」ための備えとして官民問わず注目が高まっている。水道や下水が止まった状況でも清潔に使えるこの仕組みは、これからの危機管理の新しいスタンダードになりそうだ。
電源があれば容易に設置できるポータブルトイレ「クレサナ」はキャンピングカーなどレジャービークルのパーツとしてだけでなく、災害の現場やオフグリッドな環境でも活躍する
また、人口減少が進む地域では、交通空白地帯の解消を目指した公共ライドシェアモビリティを導入。稼働率の高い公用車を実現しつつ、地元の雇用創出にもつなげている。
愛知県犬山市とは2026年3月まで、公共ライドシェアの実証実験としてハイエース「マルモビ」を無償貸与。朝夕は交通機関の代替として活用し、日中や週末は多目的車両として地域での活用が進んでいる
さらに、移動型の期日前投票所といったモビリティ行政サービスの開発も進行中。地域に寄り添った機動的な行政対応を可能にしている。
ブランドロゴに込められた未来へのメッセージ
TFMEのブランドロゴは、空に浮かぶような流線が交差する未来的なデザイン。これは、技術とアイデアの融合によって新たな価値を生み出す姿勢を象徴している。
トイファクトリーの誠実なものづくりを表す水色と、挑戦と情熱を象徴するオレンジ。二色が重なるこのロゴには、「未来を動かすエネルギー」への強い想いと、人のぬくもりを大切にする企業理念が詰まっている。
「キャンピングカーが空を飛ぶ日も遠くない」——そんな未来を思わせるブランドロゴに象徴されるように、TFMEは単なる車両製造にとどまらない。モビリティとエネルギーを軸に、地域社会に寄り添いながら、暮らしを支えるインフラそのものへと歩みを進めている
キャンピングカーの技術を、社会の力に
キャンピングカーの開発で磨いた技術を、社会課題の解決に応用する——この挑戦は、トイファクトリーならではのものだ。単なる車両製造にとどまらず、モビリティとエネルギーを通じて、より安心して暮らせる未来を形にしようとしている。
もう一つのトイファクトリー。TFMEの歩みは、今後も注目を集めるだろう。